ディズニーランドのアトラクションのひとつに「スターツアーズ」がある。スターツアーズは映像が数種類用意されており、その組み合わせにより何度乗っても違うシナリオが楽しめる。わたしはそんなスターツアーズが本当に好きだった。すべての映像をコンプリートすべく、年間パスを買って通いつめたこともある。
そんなわたしが、Netflixで12/28に公開された「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」を好きになったのはもはや必然というべきかもしれない。視聴者の選択肢によってシナリオが分岐し、異なるストーリー、そしてエンディングへと「導かれていく」というのは久々の体験であり、ネット配信の新たな可能性を感じさせられた。
『ブラック・ミラー: バンダースナッチ』予告編 - Netflix [HD] - YouTube
「マルチエンディングの作品」というと個人的にもうひとつ思い浮かぶものがある。2002年に放送されていた特撮、「仮面ライダー龍騎」だ。龍騎は当時テレビスペシャル版の放送において、「戦いを続ける」か「戦いをやめる」か、視聴者にその選択を委ねた。今ではもう懐かしいテレゴングとインターネット投票により「戦いを続ける」エンディングが放送され話題となった*1。
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そんな「マルチエンディングの映画」を、ネット配信という場で行ったのがこの「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」だった。
ネット配信という視聴方法が世間に浸透してきたとはいえ、過去にNetflixで配信されていた他のインタラクティブ作品はほとんど知られていないままになっていたのではないかと思う。実際にわたしも、バンダースナッチを観てから「他にもインタラクティブ作品はないのだろうか」と思い調べたくらいだ*2。
「ブラック・ミラー」という人気シリーズの新作として投入されることにより、新しい動画の視聴スタイルとして世の中に認識されるようになったのではないだろうか。インタラクティブシステムを作った人からしたらこれほど嬉しいことはないだろう。(と、ついつい技術者寄りの目線で考えてしまう。)
選択肢を選ぶ10秒間、主人公のステファンがじっくり迷うような仕草を見せるのがいい。彼は精神病を患いカウンセリングを受けており、重要な選択肢で決めきれすに迷うであろうということが想定されるからだ。じっくり迷う、という仕草を見せることにより、選択肢を選ぶ時間までも作品の一部として取り込まれ違和感のない仕上がりになっている。
また、エンドロールにたどり着き前の選択肢に戻る際、それまでの出来事がダイジェストのように流れるのだが、これも戻った選択肢までがきれいに再生されるようになっている。正直驚いた。ノベルゲームならスキップですべて飛ばすところも映像としてきれいに見せている。このダイジェストも何種類か用意されているだろうから、この作品は映画何本分もの映像が作成されているのではないか、と恐ろしく感じた。
※※以下ネタバレを含むため改行しています※※
おそらく「トゥルーエンド」と思われるエンディングにおいて、ステファンは「選んでいると思わせて選ばされている」と語る。選択肢を何度も繰り返すうち、ステファンがどういう家庭で育ったのか、彼にとって最良の選択肢はどれなのかが少しずつわからなくなっていく。彼は選択肢に取り憑かれ精神を病んでいくが、何度も何度も繰り返し観ていくうちに、視聴者である自分自身も分岐の闇に囚われ始めていることを実感し背筋が寒くなった。こんな感情を味わえるのは、この作品が「ブラック・ミラー」のオムニバスの一部である所以かもしれない。
正直なところ後味は本当によくない。どの選択肢を選んでも、ステファンが本当の意味で幸せになることはないからだ。ゲームブックという悪魔に取り憑かれた男の結末を観て、自分自身もその悪魔に取り憑かれる――そんな体験を味わってみたい人はぜひ。一度観だしたら最後、全エンディングを制覇するべく何度も、何度も選択肢まで巻き戻してしまう自分がいることに気づくはず。